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◇新着法務行政情報◇
 〜相続〜
 遺言の活用法
 

なぜ今遺言を残す人が増えているのか?

 

 最近、遺言作成についてのご相談が多くなってきています。

「遺言は財産がある人がつくるもの」「遺言は死ぬ間際に考えればいい」などという考えはもう時代遅れ。もはや遺言は書いて当たり前、書かない人が珍しい、そんな時代に差し掛かってきているのです。

 遺言の効力自体は今も昔も変わっていないのに、作成件数は増加の一途を辿っています。昭和41年には年間7767件しかなかった公正証書遺言の作成件数は、平成16年には66592件と約8倍以上にものぼります。平成元年から比べても約1.6倍増加しています(公証人連合会資料より)。しかも、この数字は公正証書として作成されたものだけですから、自筆証書遺言等を加えるとその数は3倍以上になると言われています。

 遺言作成増加の背景は、遺産相続を巡る争いにあります。全国の家庭裁判所における遺産分割事件は、昭和30年には2661件だったのが、平成元年には7047件、平成16年には8950件まで急増しています。
「相続」=「争族」と言われる所以がこのデータからも明らかです。また、身内での争いは根が深くなり、感情的対立を生じるため、紛争も長期化し、その後恐らくは一生対立が続いてしまうものです。

 では、なぜ争族が急増しているのでしょうか。一番の要因はジェネレーションギャップにあると思います。世代が若ければ若いほど(相続で貰う側)、近代個人主義の意識が強く、「家」よりも「自分」に重きをおいています。一方財産を残す側の高齢者や資産家は、戦前の旧民法における家督相続(簡単に言うと長兄が全てを貰うことです)の名残があり、「家」に対する意識が強く残っています。ですから、肝心の財産を残す方は、ウチは大丈夫、家を守ってくれるはず、と思って遺言などわざわざ書きません。そしていざ相続が開始した時には、子供達世代が個人の権利を主張し、故人の意見が反映されることは無いのです。このご時世、もらえるモノは貰っておきたいと考えるのも当然と言えば当然ですよね。

 そこで、ようやく遺言の重要性を認識し、生前に自分の死後を見通して遺言を遺される方が増えているわけです。遺言書自体が、遺された家族にとっても、無用な対立を回避し、スムーズな相続手続きを実現させる大変有難い遺産であるとすら言えます。 

特に遺言を遺しておきたいというケースとしては、以下のようなものがあります。

  1. 遺産が不動産しかないという場合 これは逆に大変です。なぜなら不動産はお金のように分ける事が出来ませんから、場合によっては自らの現金を出す、ということも有り得ます(代償分割)。
  2. 相続人に子供がいない場合 この場合には相続人が尊属又は兄弟姉妹まで広がりますから、遺された配偶者の負担は相当なものとなります。
  3. 経営者や個人事業主の場合 相続によって会社や事業の承継をする必要がありますので、遺産分割はより複雑化します。特に新会社法施行により会社の機関設計も柔軟に出来るようになっていますので、会社形態の見直しと共に相続にも備える必要があります。

 以上のとおり、遺言を遺さないということがいかに不利益を生じるか、お分かりいただけたでしょうか?
  遺言は自分の歩いてきた人生の締めくくりです。勿論「付言」というメッセージも遺すことができます。残された家族のために生命保険には入っていても、遺言は書いていないなどということはナンセンスです。元気なうちに、家族の将来の事を考えてみては如何でしょうか。

 なお、遺言できる事は民法に法定されており、その様式も厳格な規定があります。作成される場合にはまず、弁護士・司法書士・税理士・公証人といった専門家へご相談下さい。