今回は、合資会社の株式会社への組織変更について解説します。
多くの企業において、事業承継が進んでいます。そして、その中には、少な
くない数の合名会社、合資会社(現行法下でいう、いわゆる「人的会社」)が
あります。その多くは創業30年を超える老舗であり、事業承継がのっぴきな
らないところまで来ているケースが多いといえます。
人的会社の特徴は所有と経営の一致、いわゆる社員の無限責任性です。次世代の後継者にとって、いわゆる人的会社の事業承継は、この無限責任性をどう回避するか、がひとつの大きな問題であることは間違いありません。
そこで今回、とりわけ、人的会社の特徴である社員の無限責任性を消滅させる方法としての「組織変更」について、今年5月施行の会社法上の制度を説明します。なお、この点は、現行法(商法)から実質的な変更があるのでご注意ください。
1.総説
- 今回施行される会社法では、合名会社、合資会社のほか、すべての社員が会社債権者に対して間接有限責任のみを負担する合同会社(いわゆる日本版LLC)が設立できることとなりました。
これらの3つの会社を総称して「持分会社」といいます。
- 持分会社間の変更は、「定款変更」とされました。
■その定款変更は総社員の同意でいつでも可能となりました。
■合名会社が、合同会社とすることも、債権者保護手続なくできること
とされました。
- 持分会社から株式会社へ変更することが、「組織変更」とされました。
■旧来の組織変更は、人的会社間、物的会社間でしか認められなかっ
たことと大きく異なる取扱となったといえます。その意味では規制緩
和といえます。
■株式会社と持分会社では、会社の政策思想が異なるから、規制も違
うので組織変更の要件・手続は重くなっています。
・特に、総社員ないし総株主の同意と、債権者保護手続の履践が必
要とされていることの意味は大きいといえます。
- 次に、会社等の法人も、無限責任社員となれることとなりました。
■これは、合同会社制度創設に比べて、あまり注目されていないようで
すが、実際重要な意味を持ち得ます。
2.組織変更の法的手続き
例として、会社法下の「合資会社から株式会社への組織変更」について、法的手続を概説します。これは、現行法にはない手続です。
- 組織変更計画の作成(会社法743条 746条1項)
- 総社員の同意(会社法781条1項)
- 債権者保護手続(会社法781条2項において準用する779条)
■「官報公告」および「知れたる債権者への個別催告」を行う。
組織変更の登記(会社法920条 930条3項)
■登記の手続としては、組織変更前の会社につき「解散登記」組織変
更後の会社について「設立登記」を行う。
Q)合名会社、合資会社を合同会社へ定款変更するのがよいか、株式会社へ
組織変更するのがよいか?
A)一概にはいえません。ケースバイケースです。前者は、手続は楽であるが、
その分債権者対応に細心の注意が必要となります。
後者は、手続をしたら 後には引けなくなるケースも想定されます。
いずれにしても、専門家によく相談してから実施されることが肝心です。